D望遠鏡の分類
(2)対物鏡による分類
望遠鏡の光学的な性能を決めるのが対物鏡です。そこで、対物鏡を持って望遠鏡の形式とします。鏡と書きますが、レンズのことを鏡とも呼びます。この対物鏡を主鏡と呼ぶこともあります。
A 凸レンズを対物鏡とする方式 屈折望遠鏡
主鏡(対物鏡)に凸レンズを使います。考案者の名前からケプラー式とも呼ばれます。光路を変えるだけに平面反射鏡を使い、集光にはレンズを使用する太陽望遠鏡のような場合も屈折望遠鏡として扱います。
特徴は良くも悪くも対物側にレンズを持つことから出ています。接眼鏡は例外があるにしろレンズでできているのが一般的です。対物鏡に凸レンズを使う形の場合に、接眼鏡に凸レンズを使うか凹レンズを使うかによる2つの形式的分類があります。
@ ガリレオ式
最初に発明された屈折望遠鏡です。対物レンズは凸レンズ、接眼側に凹レンズを使用することで正立像を得ます。発明が伝えられてからガリレオ・ガリレイが作成し、天体に向けたことで有名となり、ガリレオ式の名称が付けられました。今でも低倍率の双眼鏡、オペラグラス等で使用されています。
利点
・構造が最も簡単である。
・作成しやすい。
問題点
・視野が狭く倍率を上げることが難しい。
A ケプラー式
屈折望遠鏡といえば、普通はこの形式です。対物側と接眼側両方に凸レンズを使用します。現在では接眼側の接眼鏡を入れ替えて使う方が当たり前になりましたので、対物側のレンズの性能が望遠鏡の性能となります。そのままでは上下左右逆像となりますので、地上用として使う際は正立させるための光学系を用意します。この為、最低4枚の凸レンズが必要になります(下図)。
天体用としては色収差などの補正の為に枚数を増やして補正をしますし、更なる大口径化を求められますが、大口径のガラス材は、支えるためにますます厚くなり、ガラス材の吸収による減光や、ガラス材の製作の困難さは加速度的に大きくなるので、レンズ径は1メートル程度までしか作られませんでした。
利点
・メンテナンス(光軸修正、取り扱い)がほとんど必要ない又は容易である。
・鏡筒形状が簡単で作りやすい。
問題点
・色収差を高度に補正すると高価になる。
・上下左右逆像となる。
・天頂プリズムを使用すると裏像となる。
・大口径は高価・製造困難である。
・レンズの自作はかなり難しい。
B 反射望遠鏡
主鏡(対物鏡)に凹面反射鏡を用いるものです。始まりは反射鏡をのぞき込む形のハーシェル式ですが、主鏡の他に各種副鏡を使うものとして、ニュートン式を初めとする多くの派生型が存在しています。その中で、構造が簡単で製品化しやすいのがニュートン式です。
反射鏡を使うことから色収差は出ません。ガラス材も最も安価な青板から高級品では温度変化の少ない石英ガラスのような選択肢があり、レンズ用よりは大きな物が作られています。反射鏡を作る際にはレンズの2倍の精度が必要ですが、主鏡と斜鏡の2面で済む為に、レンズより安価に製作することが出来ます。今でも最高精度の放物面や平面を作るのは職人芸ですが、それなりのレベルの精度が機械で出来るようになっています。また、昔は2〜3年ごとにメッキを更新しないといけませんでしたが、メッキ表面に硬膜コーティングをするようになって寿命が10年以上に延びています。但し、鏡筒は対物側が解放されていて、温度変化がある場合は筒内気流が発生します。
また、安価に光学系を製作できることから、他の部分も安く上げて価格を落とした製品がまだまだ多くあります。そのような製品は屈折機に比べて調整が難しくメンテナンス性も低くなってしまいます。また、F数の明るい反射鏡は中心部は先鋭な像となりますが、周辺ではコマ収差がひどくなります。F6.0ではASP一眼の画角がやっとという状態になりますので、コマ修正レンズをオプションとして用意するメーカーもあります。
Bハーシェル式
1772年ハーシェルが作成しました。副鏡を使って光軸を光路から出すのでは無く、主鏡を傾けて使う方式です。このような形を軸外し光学系と呼ぶこともあります。光学系として接眼部以外に鏡が一枚で、他の方式より明るい像が得られます。当時の鏡は金属鏡で反射率が低く、反射板で筒外に光を導くと、更に減光してしまうことからの最も単純な解決策です。当時はレンズを作る方が費用がかかり、色収差を修正することも出来なかったので、反射鏡を使う望遠鏡が作られたのです。
光学理論的には光を集める為に放物面が適当なのですが、口径比(F数)を暗くすると球面でも充分であり、F数が大きければ軸外しによる像の悪化は抑えられます。ここから平面鏡や各種凹凸面鏡を配置した各種の軸外し光学系が考案されています。
利点
・明るい像が得られる。
・最も簡単な光学系である。
問題点
・軸外し光学系のために収差が大きい。
・裏像である。
Cニュートン式
現在の反射式の基本形です。1668年に考案され1672年に製作されました。放物面の主鏡で集光した光を平面鏡で筒外に導く形です。平面鏡の角度やプリズムで代替するなどの派生形や平面鏡付近に補正レンズを組み込むものなどが多数存在しています。現在では主鏡にガラスの放物面を用い、アルミメッキするのが一般的です。アルミメッキは数年に一度、再鍍金する必要がありますが、近年寿命を延ばすコーティング技術が進んでいます。
利点
・ケプラー式に比べて磨く面が放物面1つ、平面鏡1つである為、安価となる。
・色収差が無く中心像は先鋭である。
問題点
・原理的にコマ収差が残っています。視野周辺に強く出ますのでF数を小さく出来ません。(補正レンズを用意して、広視野にする事もあります)
・副鏡とその支えの形状により像の乱れや光条が出ることがある。
・安価を追求する為に鏡筒の作りに手を抜いているものはメンテナンスの手間が多くなる。
・横から覗く形式である為に赤道儀の場合、見る方向により鏡筒自体を回転させる必要がある。
・反射鏡のアルミメッキが数年〜10年に一度程度必要となる。
Dグレゴリー式
1663年スコットランドのグレゴリーが発明しました。放物面主鏡の中心に穴を開け、副鏡には楕円面凹面鏡を用いて後方に光路を導く形式です。ケプラー式のように、見る方向に鏡筒を向けることが出来る上に、副鏡が正立系として働く為に19世紀前半に地上用として作られました。
利点
・正立像である。
・製作するのが凹面鏡であるため自作が可能。
・高倍率を得やすい。
問題点
・焦点距離に対して鏡筒長が長くなる。
・主鏡に穴を開ける製作上の手間が増える。
・視野が狭い。
・調整が難しい。
Eカセグレン式
1672年フランスのカスグランが考案しました。主鏡は放物面、グレゴリー式の副鏡に双曲面凸面鏡を用いる形式です。グレゴリー式より鏡筒の長さを短くすることができます。大望遠鏡は、このカセグレン式と後述のリッチー・クレチァン式がほとんどになっています。
利点
・鏡筒を短くできる。
・高倍率を得やすい。
・大望遠鏡にしやすい。
・主鏡焦点を独立して使うことが容易です。
問題点
・双曲面凸面鏡の製作は難しい。
・調整が難しい。
Fナスミス式
1851年イギリスのナスミスが考案、製作しました。カセグレン式を基本に、鏡筒の重心付近で鏡筒外に光軸を導く方式です。主鏡に穴を開けないことで主鏡の精度を保ち、見る場所を同じ場所に保つことが出来ます。派生形として出て来たのは鏡筒の支持部分に光路を導き、接眼部を架台に固定する方式がグーデ式です。
利点
・穴を開けないので鏡面精度を保つことが出来る。
・観測姿勢と位置を大きく動かす必要がない。
問題点
・光路遮蔽が増えている。
Gリッチー・クレチァン式
1922年ウイルソン天文台のリッチーに依頼され、ソルボンヌ大学のクレチァンが設計したもので、外見はカセグレインと同じですが、視野を広く使う為に主鏡副鏡共に特別な非球面を使い、残された収差は像面歪曲だけになっています。この為、像面歪曲に合わせて乾板や撮像装置を用意したり、像面歪曲を補正するレンズ系を入れるようになっています。大型の装置では、非球面の主焦点を補正するレンズを用意するものもあります。小型の装置では像面歪曲を補正するレンズを撮影用に使います。
利点
・鏡筒を短くできる。
・高倍率を得やすい。
・大望遠鏡にしやすい。
問題点
・正副とも非球面で製作は難しい。
・主鏡焦点を使う場合に補正レンズが必要となる。
B 反射屈折望遠鏡
反射鏡(平面鏡は除く)とレンズを組み合わせて主焦点を作るもの。反射望遠鏡に主鏡の収差補正レンズを取り付けた場合を含めることもありますが、基本設計として反射鏡とレンズを組み合わせた主焦点を固定使用するものを言います。反射望遠鏡が元になるため、非常に多くの形式が提案されています。その代表がマクストフ式で、対物側に補正レンズを付け鏡筒を密閉させることで筒内気流を押さえ、コマ収差などを補正するものです。
Hマクストフ式
1941年ソビエトのマクストフが発明しました。同時にオランダのバウワーズも独立に発明しましたがドイツ占領下のために発表が遅れました。メニスカスの補正レンズと球面鏡の簡単な組み合わせで作られるために量産が可能になりました。
利点
・製作が易しい。
・残存収差が少ない。
・鏡筒が短くできる。
問題点
・調整が難しい。
Iシュミット式
1930年ドイツのシュミットが発明しました。球面凹面鏡に非球面の補正版を使用します。眼視用というよりは写真専用に作られ、明るくてコマ収差の無い広い視界を持っています。
利点
・コマ収差のない明るい広大な視野が得られる。
問題点
・結像面が平面ではない。
・補正版の製作が難しい。