A望遠鏡とは何か

 望遠鏡とは肉眼のみで観察するよりも細かく、あるいは明るくするために、鏡やレンズを組み合わせた光学製品の総称です。これにカメラを取り付けると、強力な望遠レンズとなります。この方法を発展させると、可視光だけでなく赤外線や紫外線といった可視光近傍領域も観望観測対象となります。また、更に長い波長の電波領域を扱うものもありますが、こちらは完全に目で見るものでは無くなってしまいます。電波で見るということから慣習的にこれを電波望遠鏡と呼びますが、その実態はアンテナです。望遠鏡とは目で見ることの出来る遠方の拡大装置と考えるのが一般的な言葉の意味ですから、「とおめがね」という名称のとおり、単に望遠鏡といえば光を扱うものです。

 望遠鏡は1608年、オランダの眼鏡職人ハンス・リッペルスハイによって発明されたと説明されることが多いのですが、異説があります。異説と言うよりは、発明したという話そのものが異説の類で、発明者、発見者不詳というのが本当のところであると考えられています。色々な噂話はありますが決定打が無いのです。リッペルスハイは当時の国会に特許を申請していますが、当時の国会は調査した結果、これを認めていません。ただし、リッペルスハイに望遠鏡を作らせて納入されている事は確かです。レンズ自体は古くから知られていたものであり、拡大効果も知られていました。そのレンズを組み合わせることで更に拡大像を得るという単純な技術でも、眼鏡職人の間に存在していた徒弟・競争・対立関係が絡んでいて、当時でも調査が困難であったようです。この時代の記録は、下手なことを書くと神の恩寵を受けないものとして扱われ、社会的地位の失墜や命の危機すらもありましたから、実に遠回しに書かれています。解釈次第では発明者ではないかという記録が多数あることは確かです。

 こうして世に出て来た望遠鏡は、戦争の道具として秘匿されましたが、知っている人間が増えれば、人々の間に知られていきます。望遠鏡は、基本的に2枚の凸レンズを使うのですが、正立像にするために更に2枚の凸レンズを使っています。オペラグラス程度であれば凸レンズ1枚と凹レンズ1枚で済みますが、それほど倍率を稼げませんし、視野も狭くなります。そして、構造としては単純なものであるにも関わらず、当時としてはかなり困難な材料や製造上の技術的問題、光学理論の欠如から、きわめて高価であり性能も劣るものでした。そして、それらの問題は技術的進歩によって解決され、現在に至っています。

 また、反射望遠鏡は1636年にフランスのマラン・マーセンが考案しています。中央に穴の空いた大きい凹放物面鏡と、小さな凸の放物面鏡を組み合わせたものです。大きい放物面鏡の裏からのぞき込んだ先に凸面の反射鏡を置くと、大きな反射鏡で反射した風景が、小さな反射鏡に映ります。焦点距離を調整すれば、立派に望遠鏡として働きますし、純粋な反射望遠鏡として機能します。ただし、当時の反射板は金属板を磨いたもので、反射率は低く、2回反射させると光量は2〜3割程度になってしまい、暗くてあまり良く見えないものになったと思われます。それに当時の研磨技術からすると、放物面をそれほどうまく作れたのかどうかという技術的な問題が出て来ます。同じように1663年にスコットランドのジェームス・グレゴリーは、放物面の主鏡と楕円面の副鏡を使った正立像の反射式望遠鏡を考案しましたが、技術的な問題から試作は成功しませんでした。

 今では、それらの課題も解決し大きく進んでいますが、やはり良いものはそれなりに高いという経済の原則は変わっていません。でも、大貴族でなければ持てなかったものが庶民でも持てるというのは、大きく時代が変わっていると言うことなのでしょう。