20140923

レンズ性能 SIGMA MACRO 105mm F2.8 EX DG OS HSM


 レンズの収差の中で、最も始末に負えないのが歪曲収差です。コマ収差や球面収差であれば、ある程度絞り込むことによって改善します。しかし、歪曲収差だけはどうしようもありません。デジタルカメラの中には、これを自動的に補正してくれるものもありますが、レンズそのものに歪曲収差が少ないものが良いものであることは間違いありません。カメラのレンズでは、概ね、この収差補正は後回しになっています。特にズームレンズでは、焦点域により大きく変化しています。従って、歪曲収差を嫌うのであれば、一眼レフのレンズにズーム式を選択できなくなります。
 勿論、この歪みについて、レンズの味というように考える向きには歓迎されている部分もあるようです。中には魚眼レンズのような歪みを楽しむものもあります。と言うより、球面を平面に投影するのですから、変形しなければ収まりはつきません。
 歪曲収差の補正に気を使っているレンズが、マクロレンズ、またはマイクロレンズと呼ばれるものです。対象とは無限遠から一対一の大きさまで撮影ができるようになっていて、多くの場合、近づいて大きく撮影するために使います。ブツ撮りの必要性から、歪曲収差は当然として像の先鋭度、アウトフォーカスの状況が問題になります。これらのレンズの中でタムロンの90mmというのが銀塩時代の古典的名玉として知られています。
 言ってみれば、マクロは近寄って大きく写せるレンズという意味に使っているだけで無く、そうした使い方をしてもちゃんと写るというレンズの性能を誇るものです。カメラメーカー、レンズメーカー、それぞれ入魂の品物として90〜105mmの焦点距離を投入しています。会社によっては、マクロレンズとして、それ以外の焦点距離を持つところもあります。
 従って、歪曲収差を嫌う場合は、マクロレンズに手を出すことになります。天体用としては、そもそも恒星自体は露出オーバーでの撮影となります。ですから、残存収差は少ないに越したことはありません。その上に形が歪まないように写るという点は好みの部分かも知れません。
 ある程度の性能として各社MTF曲線を公表しています。全て買ってきて比較し、一番良いものを使うというお金持ちの方法は、皆さんができることでも無く、庶民としては、一番良さそうな1本を選ぶということになります。そのときに、参考とするのが、このMTF曲線です。一般にコントラストと解像度の具合を示すもので、当然ですが、上の方にあるのが良く、2本の放射方向と同心円方向を示す曲線が離れないことが点像に近いことを示しています。これが良ければ全て良いとは限りませんが、この曲線の状態がダメダメであれば、やはり駄目でしょう。
 それらの中で、良さそうに見えるものの中から選び出したのが「SIGMA MACRO 105mm F2.8 EX DG OS HSM」です。決定した理由は、MTFが自分的基準を満たし、同系列の50mmマクロを持ち、使用に耐えていることと共に、D300で使っていたAPS-Cサイズの標準ズームレンズも、MTF曲線通りの性能を出していたことからです。ただし、購入後、保障が切れてから行ったレンズテストで問題が出て、本社のサポートに相談したところ、社内基準内であると説明されましたが、調整されて戻ってきた品物が、今回のテストの対象です。期間が空いたのは、当初の見込み通り星像が小さく収まることからソフトフィルターを使ってばかりいたためです。問題というのは、良くあることですが、左右の収差がD800の等倍で見ると片寄っているというもので、戻ってきたレンズの中心像は同じでしたが、周辺像は、まるで別物、公表されたMTF曲線を越える性能の品物に生まれ変わっていました。光学製品は製造・組み立ての過程で、最高性能を出すものと、そうで無いもののが出てしまい、基準を設けてダメ製品をはねるものです。今回のことについては、ユーザーとしては少々複雑な気持ちもあります。

 先ずは周辺減光の具合です。D800、ISO400、15〜240秒、カブリを生じる程度の露出をして、絞りを変えてみました。全画面を縮小しています。かなり厳しいテストで、カブリ等で周辺減光が問題になる場合は、F5.6でかなり改善し、F8ではほとんどフラットな状態になります。カブリの生じない状況であれば、どの絞りでも使えます。
F2.8
F4.0
F5.6
F8.0
F11


 次に、中心像です。等倍の切り出し画像です。オレンジ色の星が琴座δ星です。星像は絞りによって若干締まりますが、大きな変化は見られません。
F2.8
F4.0
F5.6
F8.0
F11


 続いて周辺像です。画面左上端を等倍で切り出しています。星像そのものは絞ると収差が少なくなっていますが、改善されているわけではありません。しかし、これが対角最周辺であって、この内側の星像は劇的に改善しています。つまり、画面のかなりの範囲が、中心と同じレベルで結像し、それが絞りに影響しないでいるという性能を示しています。つまり、マクロレンズとしての当然の性能を見せていると判断しても良いでしょう。
F2.8
F4.0
F5.6
F8.0
F11


 最後に輝星の状況です。琴座α星ベガです。開放では絞りが関わらず、円形の回折が出ています。絞り込むと9枚の絞りから生じる18本の光条がでています。円形絞りというスペックですが、完全な円とはなっていないために光条が別れています。特段問題となる事ではありませんが、中にはこれが嬉しい方もいらっしゃるようです。
F2.8
F4.0
F5.6
F8.0
F11


 結論です。その昔、銀塩の頃は、天体写真を撮る際に、開放では収差が多く一段か二段絞ってというようなことが当たり前でした。今でも、通常のレンズについては同じですが、マクロレンズの中には絞りに寄らずに撮影できるという、ある意味、もの凄いレンズが存在しているということが判りました。この場合の絞りの使い方は、絞り本来のピントの合う範囲を決定するという役目であり、開放付近のきわめてシビアなピント位置を甘くするという機能に使えるということになります。勿論、周辺減光への対策もできます。
 当然ですが、このレポートが、他のマクロレンズに全て通用するとは限りません。某C社のマクロは、ファンの方々が主張するような性能を出してはいませんし、別社のマクロは近距離の撮影にて最大の性能を出すように設計しているようです。また、同じレンズでも、いろいろな事情でこの性能を出さないかも知れません。いずれにしても保証の限りではありません。あしからず。


補足

サービスセンターに相談前の撮影映像D800

等倍切り出し画像 中心と周辺


サービスセンターに相談後の撮影映像 詳細

F2.8

等倍切り出し画像 中心と周辺

F4.0

等倍切り出し画像 中心と周辺

F5.6

等倍切り出し画像 中心と周辺

F8.0

等倍切り出し画像 中心と周辺

F11

等倍切り出し画像 中心と周辺