分離式3枚玉EDアポクロマートという頂点に近い性能が期待できる製品です。そのうたい文句通り、眼視で月や恒星を見ても色収差に気付くことは無いと思います。これを写真鏡とした場合も、大変に良い性能を示します。勿論、口径比からするとカメラ用レンズに比べて暗いのは否めません。しかし、明るい設計にすれば、色収差だけで無く、他の収差がF値の4乗に反比例する勢いで増えますから、このあたりが良いところでしょう。光学的性能の他に、特筆すべきは接眼部の使いやすさと堅牢さです。
この鏡筒をカメラレンズとした場合に、どれだけの性能を示すのか、興味あるところです。
性能についての収差曲線が輸入元から公開されています。ただし、収差曲線の見方を知らないと性能の評価を間違えることになります。縦軸は口径の中心から周辺部への距離を表し、横軸はその部分の焦点位置について、光軸上でのd線(黄色、587.6nm)の焦点位置を基準として計った距離を、レンズの焦点距離を100mmとして換算した値で表示しています。
つまり、130EDTは焦点距離900mmですから、光軸上の光線では、c線(赤色656.3nm)は+0.02ですから、9倍して+0.18mm、同じようにF線(青4861nm)では-0.04で、-0.36mmの色収差による焦点移動があることになります。更に、レンズ中央からの距離により球面収差として知られる曲線があり、赤から青の範囲で、軸上最大0.6mm程度の収差があることが判ります。このレベルでは、肉眼で色収差を捉えるのは難しく、ほぼ、売り込みのコメントにあるように、色収差を感じさせないレベルの補正となっていることが判ります。
パート1 D300 DXフォーマット 2011年 4月 7日 23.6×15.8mm
パート2 D800 FXフォーマット 2012年10月 6日 35.9×24.0mm
パート3 D800 FXフォーマット 2014年10月25日 35.9×24.0mm
撮像機 Nikon D300 DXフォーマット 23.6×15.8mm
作例対象 かに座散開星団 メシエM44 通称名プレセペ 光度3.7等級 大きさ 95′×95′(直径が月の3倍)
画像加工 背景の明るさを同じになるようにLCHエディターで調整しました。
直焦点 f.l.=900mm F=6.9
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広がりのある星団ですから、900ミリという長焦点では、はみ出しかけています。D300の画角内では、色収差は全く見られません。視野周辺になると星像が少し伸びています。これは球面収差の影響でしょう。アクロマートレンズでは、かなりの色滲みを生じますが、それらの片鱗すら伺うことはできません。やはり、期待通りの性能を持っているようです。
視野周辺では、拡大しないと目立ちませんが、星像が伸びています。
0.8倍のレデューサーが販売されましたが、本体の購入を思い立ったのがかなり後になったので、レデューサーのロットが完売していて、次のロット待ちという事だったのですが、0.6倍のレデューサーとフラットナーが発売されましたので、早速、注文し試してみました。
フィールドフラットナー f.l.=900mm F=6.9
左上の拡大
球面収差の補正はかなりうまくいっているようです。大変に気持ちのよい状態です。光量損失が若干あることと、微妙にカラーバランスが変わる傾向が見られます。こちらは硝材によるものと思われます。
0.6倍レデューサー f.l.=540mm F=4.2
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やや、過修正かとも見えますが、0.6倍という、本来無理のあるスペックからすると、ASP−Cの範囲ではピクセル等倍で無いと判らない状態に納まっているという、大変に良い性能を出しています。背景が明るい場合は周辺減光が出てきていますが、フィールドフラットナーと0.6倍レデューサーは130EDTの性能を更に引き出しているのは間違いありません。
クローズアップレンズNo.2使用 f.l.=722mm F=5.5
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カメラ用のクローズアップレンズをレデューサー代わりに使うという方法があります。試したことがありませんでしたので、どんなものかはやってみないと判りません。安い部品でもありますから、注文して手に入れ、やってみました。
クローズアップレンズの焦点距離は500mmで、合成焦点距離は700mm強くらいになると計算されました。結果は中心像についても色収差による星像の肥大化が見られます。周辺像に至っては球面収差によって色分散が明瞭に見られました。既に使い物にはならないレベルです。
クローズアップレンズNo.3使用 f.l.=639mm F=4.9
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クローズアップレンズの焦点距離は250mmで、合成焦点距離は600mm強のはず。2より更に収差が増えた事がすぐ判ります。球面収差と色収差が相まって、周縁像がきれいにスペクトルに別れた像になっています。3ではスターボウのような画像となりました。クローズアップレンズはレデューサーとして使えるかと言えば、まあ、こんな結果です。今回は注文しませんでしたが、使えるのはせいぜいNo.1でしょう。本来の目的である近接撮影でも、この効果が出ることから、これを嫌って、2枚貼り合わせのアクロマート式のクローズアップレンズも発売されています。
タカハシMT-160付属コレクター f.l.=1210mm
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タカハシ製16センチ反射MT-160に標準で付いてきたコレクター・レンズも試してみました。こちらは、焦点を伸ばす凹レンズであって、基本的には収差が目立つようになるものではありません。また、わざわざコマコレクターの機能を持たせるような短焦点でもありませんから、コマ補正を考慮してはいないだろうという予断の実験です。クローズアップ・レンズでは、色収差が出るようになりましたが、こちらの製品はアクロマートレベルとはいえ補正されていますから、色収差については等倍でよく見ないと判らない状況です。1210mmと言う焦点距離は、月を撮るのに便利な長さです。カメラとの距離を今少し取ることが出来ると、もう少し大きく撮すことが出来るようになります。月用にテレコンバーターで伸ばそうと思っていた焦点距離が、コレクター・レンズで伸びましたので、購入する必要が無くなりました。性能は高級品レベルです。中古で結構出ていますから、高級屈折機に60mmネジの接眼部があるのなら、エクステンダーとして使用するとバーローやテレコンを使うより良像が得られます。
以上の状況からすると、BLANCA130EDTそのものの性能も、追って発売されたレデューサーとフラットナーの成績も、かなり高いものと考えられます。価格と性能のパフォーマンスも良いと思います。眼視用としても撮影用としても、立派な性能を示しています。これを更にテスターにかけて性能比較を追求する方々もいらっしゃいますが、実用充分にして財布にも充分な恩恵のある機器です。カメラ用として転用しても光学的性能は決して引けを取りません。勝ちますが、取り回しに苦労する重さですから体力が必要な事は確かです。このクラスですから、当然のことですが、これを載せるのには、まともな赤道儀が必要です。一式10sですから、小型の赤道儀ではバランスを取ることが出来ないでしょう。軽いものにはあり得ない重厚な操作感があります。
NikonのFXフォーマットの高解像度版を使用しての性能調査をしていませんでした。DXフォーマットは、より小さな焦点面での性能調査ですから、より厳しい調査になるであろうことが考えられますので、実施してみました。
撮像機 Nikon D800 FXフォーマット 35.9×24.0mm
作例対象 ペルセウス座二重星団
画像加工 背景の明るさを同じになるようにLCHエディターで調整しました。
直焦点 f.l.=900mm F=6.9
ピクセル等倍
左下部分 / 中心部 / 右下部分
DXフォーマットでは、球面収差によって星像が伸びてきているのが判りました。FXフォーマットの視野端となると、明瞭に球面収差であることが判ります。ピントを甘くすると誤魔化すことはできますが、中判デジタルに匹敵する画素数では、等倍にしなくても収差が気になります。しかし、色収差は全く判りません。
フィールドフラットナー f.l.=900mm F=6.9
ピクセル等倍
左下部分 / 中心部 / 右下部分
笠井で販売しているED鏡筒用フィールド・フラットナーを使用してみました。DXでは非常に良好でしたので、期待していたところ、期待通りでした。FXでも視野周辺での像の乱れは出ていません。綺麗な点像が確保されています。筐体はウイリアム・オプトニクスのように見えます。優秀な性能です。
0.6倍レデューサー f.l.=540mm F=4.2
ピクセル等倍
左下部分 / 中心部 / 右下部分
こちらのレデューサーもウイリアム・オプトニクスの筐体に見えます。DXフォーマットでは周辺減光が見えましたので、FXでは厳しいと思っていたところ、やはり視野周辺ではかなりの周辺減光があり、イメージサークルとしてはDXフォーマットレベルになるでしょう。視野周辺の星像の乱れは、レデューザー自体の問題か、撮影の際の光軸のズレによるかがはっきりしていませんが、問題があることは確かです。こちらは、別に調査を行う予定です。
タカハシMT-160付属コレクター f.l.=1210mm
ピクセル等倍
左下部分 / 中心部 / 右下部分
DXでは気付かなかったことですが、視野周辺での球面収差が多少補正されて写っています。気にならないレベルですので、実用上問題ありませんが、フラットナーを付けた上で焦点を伸ばしたいと思うのは贅沢な事でしょうか。
2倍バーローレンズ f.l.=2420mm
ピクセル等倍
左下部分 / 中心部 / 右下部分
単純に2インチのバーローレンズを挟んでの撮影です。DXでの直焦点での状況よりは良いのですが、球面収差が出ています。ただし、光軸もずれている様子がありますので、取り付けに問題が出ている可能性もあります。こちらも調査が必要ですが、それよりも、2倍バーローレンズなのに2.7倍になっています。バーローとカメラを近付ければ倍率が下がるのですが、これ以上短くできません。この焦点距離では月を画面いっぱいに撮ることが出来るのですが、周辺像の乱れが気になるところです。
以上の状態からすると、BLANCA130EDTそのものの性能は、DX機を使用して得られた結果を踏襲して、やはり高い水準にあるものと考えられます。
パート2を作成した後でレデューサー0.8倍やテレプラス2倍を手に入れました。また、画像から等倍切り出しを行うプログラムも作成しています。これを使用して、再度調査資料を作成しました。
撮像機 Nikon D800 FXフォーマット 35.9×24.0mm
作例対象中心星 琴座αベガ
画像加工 背景の明るさを25%になるようにLCHエディターで調整しました。
焦点外像 焦点内像
直焦点
等倍切り出し
切り出し位置
フィールドフラットナー
フィールドフラットナー等倍切り出し
レデューサー0.8倍
レデューサー0.8倍等倍切り出し
レデューサー0.6倍
レデューサー0.6倍等倍切り出し
フィールドフラットナー+テレプラス2倍
フィールドフラットナー+テレプラス2倍 等倍切り出し