占星術講座SA2 (20140814)

キュリー夫妻


 言わずとも知れたご夫妻です。ノーベル賞については、奥様は初めての2回受賞者となり、長女夫婦も受賞しています。


1 先ずは、「キュリー夫人」という呼び名が一般的につかわれていますところの、マリー・キュリーです。日本では河原町近江屋で2人が斬り殺されるという事件があり、国の方向を力で動かそうとしている頃になりますが、マリーは科学者や教育者の家系で5人兄弟の末っ子としてワルシャワに生まれました。幼い頃から利発で、住み込みの家庭教師として働くことで姉の学費を援助していました。この中で、18才の折に家庭教師先の単独、カジュミェシュ・ゾラフスキと恋仲になるも、結婚は許されませんでした。
 人生の転機は1891年10月、先だってのカジュミェシュ・ゾラフスキと避暑の旅行に一緒に出かけ、若い頃のリベンジを計ろうとしたものの、色よい返事は無く、結局、喧嘩別れしてしまい、結婚した姉に誘われていたパリ行きを決めました。パリでも学業に勉め、パリ大学で物理学士を取得します。そして、知り合うのがピエール・キュリーです。
 さて、ここで、双方のチャートを見ますと、マリーは太陽を基点とするカイトがあります。ただし、冥王星はまだ発見されていませんので、単なるグランド・トラインと見る方が良いでしょう。ですから、チャートの最重要ポイントは10室、さそり座宮のマジョリティーということになります。ここには、太陽、土星、金星、火星があり、少し離れて水星が射手座にあり、5星が集中して配置されています。意味的にもさそり座宮の支配星の火星、上昇宮支配星の土星も存在しています。
 単にグランドトラインだけに注目して、太陽・月・天王星がもたらす特異な分野、独創的な分野での成功、友人の援助という部分から2度のノーベル賞という業績を導くことは可能であろうと思います。ただし、グランド・トラインは、現状を変更できない、する必要が無いという状態をもたらすものですから、うまい方向へ向かっているのであれば歓迎ですが、そうでなければ困難な状況を打破できないという含みを残していることを忘れてはいけないと考えます。
 従って、グランド・トラインに目を奪われてしまうと、ここにある特異なマジョリティの効果の多くを見落とすことになります。タイトな金星土星の合からは、愛情問題や結婚問題の抑圧が直接的に出てきますし、火星のワイドな合がそれを改善する方向への活動を示しています。また、木星の凶角は財政的な援助の問題や、各種欲求に対して不満を拡大させるでしょう。
 何をするにも財力は動かす仕事の大きさを示しますから、2室の月と海王星は如何に幸運を示していたとしても、元々持っている浮き沈みによる影響がでます。財運が大きくなればなるほど、その波が大きくなるので、落差の大きい状況が必ず出てきます。キュリー家の財政的な問題は、研究費を優先する2人である事からも慢性化しているし、業績と給料、そして国家の支援は相関していないことからも、常に逼迫していたことは衆知の事実です。
 また、7室、DSC上の天王星は海王星とスクエアですが、グランド・トラインの一翼として、天王星の示す科学者、外国からの助けが入るというような幸運を示します。これらのことをうまい方向へと使っていって、画期的な結果を得ることができるのだといえましょう。


2 次にパートナーとなったピエール・キュリーですが、1859年の生まれで、マリーより、8年早くなります。その頃、江戸幕府は国内3港での国外との貿易をやっと許可した時代です。
 星の配置は月を柄とするバケットタイプと見ることができます。ただ、月は土星とスクエア、水星とオポジションですから、柄としてのオポジションはともかく、月を損なう土星とのスクエアは厳しいものがあるでしょう。魚座宮上昇で海王星も同座ですから、内面が外から判りにくいことは間違いありません。月土星と金星土星のスクエアで、星通りに不機嫌で気むずかしいタイプ、女性関係には恵まれず、意思疎通が難しいと考えられます。とはいえ、派手なマリーのチャートに比べて、凡人とまではいいませんが、強力で目を惹くものが無いように見えます。
 ところが、ここにマリーの感受点を入れ特徴のあるポイントをチェックすると、ピエールのチャートの特異性が出現します。マリーのマジョリティーに対して、ピエールの牡牛座太陽は、オポジションであり、相補う関係がでます。例はこれ一つではありません。まさにピエールはマリーのパートナーなのです。


A マリーのチャートをもとにして、それぞれのエポックをチェックしても、占星術上、特別な結果を得られないということが多々あります。そこで、ハーモだ、ハーフサムだというような別方法を編み出して分析するという方法が幾つも提案されています。ここで、それらを試みるのは面白いことではありますが、原点に戻れという方向もあります。つまり、共同研究者であり、人生のパートナーでもあるピエール・キュリーの存在を忘れるなということです。Stargazerではこのような場合、5重円やチャーツというプログラムを用意してきましたが、要は3重円を複数用意して見るという形を取ってきました。5重円は見にくいというのが、使用者としての正直な感想です。チャーツも同じです。やはり3重円構造で、イッペンに出せないかという声が上がったときが、わたくしの転機となります。SA2で採用されたD(デュアル)は、ようやく完成に近づいています。小さなバグフィックスを続けていますが、作ったものは、言ってみれば5重円の改良型になり、表示は3重円で二人のチャートを同時に出すというものです。
 デュアル(D)では、白バックの場合、第一の出生に付いては黒色、第二の出生については薄緑色で表示を分けています。この色設定については、自在に変更することができます。各チャートの表示は旧3重円と、それほど違ってはいません。単独表示の場合、デフォルトでF5キーに割り当てている機能は2つの出生の表示順を交換するものとなっているため、このキーにより2つの3重円が一瞬で切り替えられますし、相手の感受点を同時に入れて表示することも左右キーにより一瞬でできるようになっています。表示するハウス表示は出生1を基準にしています。その中に出生2の感受点を表示することができるというものです。


3 2人が結婚した年、日本では明治28年、前年に日清戦争で大勝して意気が上がっている時代です。
 このときのマリーのチャートから、これで結婚ですという顕著なものは無いといっても良いでしょう。太陽の上に天王星が乗っていますが、マリーの出生の天王星がディセンダントにあることから関わりがあると考えることは可能です。しかし、経過の海王星は月とスクエア、仮性は出生の木星と進行土星でTスクエアですので、そうそう嬉しいという様子ではありません。どちらかといえば、遂にカジュミェシュ・ゾラフスキをあきらめた結果かと疑うような配置です。もしかすると本当にその部分があるかもしれませんが、いずれにしても、結婚の未来予測をしようとしても今までいわれているような占星術の法則では導けないことは確かです。 ところが、ここにピエールの感受点を重ねると、ピエールの進行の月がマリーの進行アセンダントと合、ピエールの太陽に進行アセンダントが合、ピエールの進行太陽は出生木星とトラインという、互いに合わせ鏡のようになったピエールとマリーの状況があぶり出てきます。こうして2人は、放射能の共同研究者としてだけでなく、人生の共同研究者としての生活を始めることになります。


4 第一子イレーヌが誕生します。両親のように、夫と共にノーベル賞を受賞するのですが、この生まれの配置も特別あつらえになっています。座相線を引けば、父、母どちらかのチャートでも、強力な座相を示すことができます。そして、一番のキーポイントを出すとすれば、やはりマリーの出生天王星でしょう。ここをキーポイントとする生まれである事は間違いありません。複数の特別な関係が、示し合わせるように動き、イレーヌに集中しています。


5 放射能の研究で新元素ラジウムとポロニウムの発見を導いた功績が評価され、ノーベル賞を受賞することになります。
 マリーのチャートからは経過木星が出生月をパスすることと、進行金星の状況がでます。ピエールのチャートからは、経過木星のアセンダント通過、進行アセンダントと進行天王星の合、進行太陽と進行木星の合があります。そして、この経過木星が2人のチャートに大きく影響を与えています。木星が権威ある科学賞のシンボルとして適当ですから、これは同然のことです。ただし、慶事だけで無く、問題が無いわけではありません。土星や海王星も事件を引き起こしています。例えばピエールの父が亡くなったり、第2子を流産するというような事件が起こっていますし、研究費に事欠いているのはいつものことです。これらも星の配置として出現しています。


6 第2子エバが誕生します。両親の出生進行の関係が際立って特徴的に合とオポジションの目立つ関係の中で、天王星をアセンダントに持って生まれています。今回のような11感受点による任意の出生2つと進行、1つの経過を組み合わせれば、1度以内には確率的に5〜7つの合衝が期待できますが、イレーヌと同じように、20個近い合衝が存在しています。この星を持つべくして生まれてきているということの傍証です。この家族4人とイレーヌの夫を入れた5人で唯一ノーベル賞を取っていないと自ら発言したことがあるという話ですが、ノーベル賞が人生の目標でも到達点でも無く、頭の良さでもないわけで、要は運ですから、エバの人間性を否定する方向で考えるのは間違いだといえましょう。


7 ピエールが馬車にひかれ突然の死を迎えます。マリーのチャートから単純にパートナーの死を導くのは難しそうです。勿論、出生図の解読として、7室の天王星がパートナーを示すとすれば、突然の変化は織り込み済みです。そこに進行の金星がオポジションとなっていますから、離婚というような事態も考えられます。ところが、経過感受点についていえば、このときという印はありません。
 ピエールのチャートでは、経過の天王星海王星水星のT字スクエアが進行太陽と絡んでいます。経過火星は出生太陽の上です。これで事件と考えるのはセオリー通りです。事件か事故かはともかく、何かあってもおかしくないという星回りである事は間違いありません。ただし、経過木星は進行アセンダントの真上であることは、これを幸運の印と思っている諸氏にはショックなことかも知れません。生きていれば、マリーと共に新元素ラジウムとポロニウムの発見で化学賞になることは決まっていたようなものです。生きていることが基本のノーベル賞ですから、夫婦で2度の受賞という記録とならなかったのも運の問題だったのでしょう。
 さて、この2人がパートナーであることを考慮し、2人の感受点を並べるといろいろなことが導けます。
 マリーのチャートを基本にすると、ピエールの太陽は4室であり、家を守る役目が垣間見えます。結婚のときのピエールのチャートでは出生月に経過土星が乗っかり、責任が増えた事を示していました。この点はマリーにしてみれば、9室の土星で学問研究の強力な重しを得ていたわけです。この太陽には前出のように経過の天王星海王星のオポジションが張り付いています。経過円に注目すれば、経過円の支配星配列は、天王星、土星とつながる月と海王星のミューチャル・リセプションの系列と、それ以外の金星を根とする系統があります。事件のトリガーと考えられる火星の根は金星で、事件を背負う星となっています。経過金星の働きは通常ではそれほど大きくはないのですが、今回は、その経過金星の位置に注目すると、マリーの太陽とオポジションとなっています。この他にも進行月や進行金星の位置から、問題となるイベントとしての配置が見えます。そして、ピエールの感受点を入れることで、このとき、この配置で無ければならない事態を推察できることになります。


 ピエールの死の後、ソルボンヌ大学(パリ大学)の初の女性教授となったマリーは、ゴシップ誌のヤリ玉となって有ること無いことを書き立てられたようです。そんな渦中に2度目のノーベル賞受賞が決まりました。一度目は師匠であるベクレルの主導する放射線研究とその分野への助力が認められた物理学賞で、ベクレルと3人での受賞です。2度目は新元素ラジウムとポロニウムの発見に対する化学賞として単独の受賞です。最初の受賞の時点で、受賞理由をラジウムとポロニウムの研究にすると化学賞の分野となるので、物理学賞として授与したという経緯があり、あらためての化学賞授与は、その後の研究もありますが、線路が敷かれていたような部分もあります。
 フランス人としては1911年の時点において、合計11名の受賞者(延べ人数、物理学賞4名、化学賞2名、生理・医学賞1名、文学賞2名、平和賞3名)が居ます。勿論、2度受賞した最初の人になったのがマリーです。
 チャートとして起こしてみると、前回の受賞で働いていたように経過木星が特別な位置にいます。出生火星、進行土星、進行アセンダントがこれに関係しています。ところが、今回はピエールの感受点との関わりが大変薄い状態です。研究内容はピエールと行っていた実験なのですが、受賞は選考時に物故者となっていたら行わないものなので、関わりが少ないのは当然としても、あまりにもあからさまな星の動きといえましょう。


B ひとつ考慮することがあります。この時代、12の星座宮に対して、8個の惑星が配当されています。水星から土星までの5つで、それぞれ2つの星座宮に割り当てられていた支配星は、天王星と海王星の発見で、木星と土星の分を分けて配当されました。そして、ローウェル天文台のトンボーが1930年に遂に更に外側を公転する星を発見し、火星に配当されてきたものを分けて使うようになりました。星座宮はサソリ座に当てられ、原子力、放射能は冥王星の配当になっています。
 つまり、冥王星発見以前であれば、放射能は火星ということになるのですが、新しく追加されたものですから火星をそのまま使うのもどうかと思いました。まして、マリーの存命中に冥王星が発見されています。そして、マリーの研究していたものが冥王星の示すものなのです。発見後に使用するという原則を貫いた場合でも少なくとも、マリーの死去に関して経過に入って来てもおかしくは無いわけです。そして、マリーの場合、出生、進行に入れてみると、見当違いの位置に入るのでは無く、判断上大変に重要な位置に来るというのが、この図での状況です。

 1932年に入って体調不良が続き、最終的に再生不良性貧血という診断が出ました。明らかに放射線症です。サナトリウムで進行アセンダントが牡牛14度で出生太陽とオポジションです。軸(アキシス)に天体が来るのは生死に関わるくらい重要な出来事です。更に出生進行の冥王星位置は、そもそも太陽冥王星のオポジションです。太陽の生命力を冥王星が削り取ると考えても良いでしょう。その上で、進行太陽は経過冥王星とオポジションの関係にあります。現在でも型の合う骨髄移植による治療しか無い状況ですから、当時としては手の施しようのない病であったのです。